2013年1月31日木曜日

スキーブーツR&Dで作ったブーツの特徴 その5


「私の思うR&Dで作ったブーツの特徴などを書いてみようかと思います」の続き。
今回は作る話の続き。の続き。

前回はカウンセリングの話を書きましたが、足型は論点ではないとなったことで、だいぶ考え方が変わります。そこで何を軸に考えるのか、という話をするために、R&Dの山本さんと会話して出てくる「ブーツの機能」について書いてみたいと思います。

ブーツの持っている機能をMESEに分類するほど私はブーツの専門家ではありませんが、山本さんの話を聞いていると主には以下の3つだと理解しています。

1.力を伝える機能
2.力を減衰する機能
3.足を保持する機能

どのブーツもこの3つの機能を持っていますが、それぞれ味というか性格が違います。ブーツの選定はこの味とか性格を選ぶことになるのですが、まずはこの3つ軸の認識があわないと会話がかみ合わないので、この説明から行います。

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いきなり脱線ですが、私はこれらの目に見えないものを機能と呼ぶのになかなか慣れないところがあります。たとえば、バックルの「マイクロアジャスト機能」とかであれば、バックルをくるくる回して長さの微調整をする機構として目に見えるのでしっくりくるのですけどね。

ブーツ設計者である山本さんからすれば、狙って作り込んだ物(検討して設計して作り込んだ物)なので、まさに「機能」となるのでしょうが。
さらにいえば、売るためには目に見える機能が重要らしいですが、目に見えない機能もすごく大事なのはなにごとも一緒という感じです。踊らされずにいい物選ぶ目を身につけたいところです。

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1.力を伝える機能
自分が入れた力がスキー伝わるとか、スキーでとらえた力が自分に伝わるという話。
これは誰にでもわかりやすいイメージしやすい機能です。
主にはスキーをたわませる力です。
この力はどこか一点や線に力が集中するというわけではなく、足裏という面に力が伝わるように設計しているという話を聞いています。確かに滑っているとブーツのソール面に全体から力が伝わっていると感じますし、面で伝わっているのであえて端に乗ってみたり真ん中に乗ってみたりと自分で制御することもできます。

ただし、力を伝えるには前提があります。それはブーツの使い方。つまり滑り方です。
正しい使い方を前提に設計されているので、間違った使い方(間違った滑り方)では正しく機能しない(=正しく力が伝わらない)というのが厳然たる事実です。
ブーツも単なる道具なので、使い手が正しく使わないと効果を感じられないというのは誰が作っても変わりません。R&Dで作っても魔法のような過剰な効果というのは期待はできないわけです。

それでも、私が実際に使ってみた感想として、山本さんのブーツは力が素直に伝わるので、正しい使い方も感じ取りやすいと思います。私はブーツの挙動に教えられて、あ、これは間違っているんだ、とか、こうやったほうがいいんだ、とか感じることがあります。


2.力を減衰する機能
振動を吸収する機能ともいえると思います。
ターン中、スキーには想像するよりもずっと複雑な振動をしています。
参考動画:mrrnさんのところのフェイスがべにょべにょで・・・にあるとおり、これを吸収する機能です。

これもブーツ単体で機能するわけではなく、滑り手の筋肉も使って実現しています。
バイクや車の足回りによく似ています。
バネを強くしてもショックアブソーバーとのバランスがよくないと跳ねてしまう話と同じで、硬くて返りが強いブーツがあっても、体重で適正な力を加え、筋力でバランスよく減衰できないと跳ね返されてしまい、トータルとしては力を減衰できないわけです。

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力学の成績の悪かった私は、あまり力学的な説明がうまくできませんが、減衰に関してはブーツがバネで足の筋力がダッシュポットな減衰振動なのか?なんて想像します。
ブーツは力を跳ね返しますが、それを筋力が減衰するという役割分担です。
ブーツのフレックス硬度があがると、単純に曲げるのに力が要るというのもありますが、一番重要なのは返りが速くなるということだそうです。この速い返りをコントロールできる技術、筋力、体重があるかどうか重要だそうです。言い換えれば、技術、筋力、体重に合わせてブーツのフレックスは決まるのだそうです。
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3.足を保持する機能
最後に1と2を満たしながら、足を保持する機能。となります。
ブーツの中で足がずれてしまっては話になりませんが、かといってがちがちに固めていいわけではありません
力を伝えるのにも減衰するのにもシェルがたわんで戻る、ゆがんで戻る、という風にシェルが使われます。なので、シェルが変形できる程度の余裕が必要になります。(これは足首が曲がるとかではなく、シェル全体の話です)
このシェルが必要な変形するための隙間(あえて隙間と書きます)を用意しつつ、足がブーツの中でずれないようにするということが重要なんだそうです。

そういう意味でフォーミングは下手をすると全部隙間を埋めてしまうので、シェルがたわんだりできなくなってしまいます。もちろんそうならないように、必要な隙間を用意するためにフォーミング時にパッドを張る訳なんですけどね。というわけでフォーミングは簡単ではありません。

また、同時に足を保持することには、快適であることも求められます。
冷たかったりしびれたりしては困るわけです。
山本さんに
「ちまたで言われるように、レーサーは痛くてもタイムの出るブーツを履くというのは本当か?」
という質問した際の回答はコレ。
「レーサーが快適性を無視しているということはありません。確かにタイトなフィッティングに仕上げていますが、一般スキーヤーの何十倍と練習をするレーサーが痛いブーツなんて使っていたら練習になりません。痛かったら、力が入らないのはもちろん、動きが鈍くなるのは普通の人と同じです。」

乗り心地としてスポーツカーのように硬いのかもしれませんが、痛いのを我慢していると言うことだけはないということです。




ということで3つの機能の説明を書いてみましたが、ここで特徴的なのは、この理屈の説明と、ブーツ選定の考え方や実際に作るブーツの内容がしっかりリンクしていることです。

ブーツチューンに限らず、難しい話で素人を煙に巻くような人がいます。
「ウンチクはすごいけど、どこに関係があるのかわからないね」
となり、そのあと(きっとすごいんだろうなぁ)と思うのか、(偉そうにしているだけじゃん)と思うのかは、聞いている人の性格が素直かどうかによりますが、どちらにしてもあまり幸せな感じではありません。

山本さんの本業がブーツという工業製品の設計だからなのか、会話をしていても、職人と言うよりまさにエンジニアという感じです。エンジニアとしての思考回路が訓練されている人なので、権威を振りかざして偉そうにするそぶりがないし、私を含めた客が勘違いしないように、根拠のない話にならないように気をつけているのだと思います。


3 件のコメント:

katsumune Suzuki さんのコメント...

R&Dのお話、たいへん勉強になります。

当方レーサーでもないので、そこまでシビアな要求は無いのですが、道具を使うスポーツである以上、道具は手足として違和感が無い様にしたいという気持ちがあります。

インソールにしろ、シェル加工にしろフィッティング主体のショップが大半の中、興味深く読ませていただきました。

KNJ さんのコメント...

動きに対する余裕以外にも、足を保持することと血流を確保することのバランスってのもあるよね。

kz さんのコメント...

Katsumune Suzuki さん

ありがとうございます。読んでいただけていると思うとがんばって書けます。なかなかゴールにたどり着けなくて長くなっていますが、気長におつきあいいただければと。

KNJさん
ちょっと修正しました。